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2006年5月19日 (金)

インスラ・ドゥルカマラ

Dulcamara  この絵は、ジュートの上に貼り重ねた新聞紙の上に油彩で描かれている。絵の具の塗りによっては下地の広告や社説が読めると言われ、独特の効果を上げているが、それゆえ保存や移動が難しく、日本での前回の大規模な個展でも、見ることは叶わなかった。畳1畳分に匹敵する画面の大きさ、色彩の調和、極限まで純化された記号の幻惑的なイメージなど、クレーの作品中もっとも美しい傑作と言ってためらわない。
 インスラは、ラテン語の「島」ドゥルカマラ、とは”dulcis(甘い)”と”amarus(苦い)”を組み合わせた造語だといわれている。地中海を連想させる晴れやかな空気。太い線で一気呵成に描かれた海岸線。水平線には昇る太陽と沈む月(?)が同居し、船は夜明けの方へ向かっているように思える。島は若々しい植物で満たされている。しかし、神の使い蛇を携えて中央にたたずむ蒼白の人物に目をやる時、この島が此岸のものでないことに気づく。すでに公職を追われ硬皮症に体をおかされていたことを考えると、絵の題名は暗示的である。

 何にしろ、スイスのベルン美術館に収蔵されたこの絵は、私にとって「見ないうちには死ねない」作品の筆頭である。

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