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2006年5月19日 (金)

まだ手探りしている天使

Angel_still_groping  クレーは生涯で49点の天使像を描いているが、そのうち実に33点が死の直前に製作されている。それらは従来のキリスト教芸術とは異なる立場で描かれており、ルネッサンス期で確立された様式は無視されている。しかも、クレーの描いた天使は、ガブリエルとか立派に名前のついた天使ではなく、「まだ……な天使」という題名の多さからも分かるように、人間の匂いが抜けきらない半人前の天使たちである。クレーにとって天使とは、此岸と彼岸との仲介人、あるいは地上と天上との間で葛藤する魂の視覚的具体化であった。その中途半端さゆえに親しみを覚えるのは、私がクリスチャンでないためだけだろうか。

 誤解のないように言っておくと、私は宗教的啓蒙を一義としたルネッサンスの絵も大好きで、ジョットやフラ・アンジェリコ(「天使のような」という名前!)の天使像にも陶酔してしまう。

 さて、クレーの天使像の中でも「まだ手探りしている天使」以上に悲劇的なものはない。瞳のない眼は空ろで、前のめりになった体は今にもつんのめって倒れてしまいそう。体に被せられた暴力的な筆使いが、出口が見えず掻き乱された天使の心を表すようで痛々しい。それでもこの天使は、手と指を突っ張らせて懸命に光を求めようとする。私たちは、ときとして天使の姿に自分の姿を重ねあわせているのに気づく。傷だらけになってもなお光を求めずには生きられない、そこにこそ人間の哀しさがあり、美しさがあるのだと思う。

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