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2006年5月19日 (金)

無題

Untitled  クレーの絶筆である。「無題」というのは仮の呼称で、あのクレーのことだ。頭の中ではユーモアに富んだ題名が考えられていたに違いない。
 この絵と(画集で)初めてであったのは、中学生のときだろうか。じっと見ているうちに涙が溢れてきて目を逸らせなくなってしまった。私のクレーへの信頼を決定的にした絵だ。

 画面左下で「まだ醜い天使」が踏み出した歩みは、右手の花瓶または人体彫刻のようなオブジェに引き継がれ、赤い月を横に見、左手の斧のような形を経てもとの場所に帰ってくる。それは、終わることの無い永遠の循環であり、天使は重大な決意をもってその輪の中に飛び込んでいるように見える。背景の闇は、半人前の天使が背負うにはあまりに深くて広い。
 クレーが息をひきとったときも、この絵は制作と中のまま画架にかかっていた。これだけ緻密な仕上げを施してもまだ筆を置かなかったことから、この絵に対するクレーの愛着の深さを窺い知ることができる。

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