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2006年5月20日 (土)

この星は謙遜を知っている

Dieser_stern_lehrt_beugen  「我アルカディアにもあり」死のみはどんな人間にも平等に訪れる。肉体や物質的な栄華を誇るものも、死の前では無力である。死は絵画において最も重要な主題として、繰り返し描かれた。死の図像は、それを忘れている人間の愚かさへの警鐘であり、死神はいつも皮肉っぽい笑みを浮かべて現れる。

 しかし、最晩年のクレーが描く死の静謐さと厳粛さはどうだろう。クレーの魂は、肉体が滅びた後祝福されるでもなく、逆に裁かれるでもなく、冷静に、私たちの感知し得ない場所への旅だちを受け入れているかのように見える。皮膚硬化症もナチスの迫害も、そして目前の死ももはやクレーを取り乱させることはできない。

 彼岸の闇よりも底深いマリンブルーの世界に、死者を導くような星が(この星は「星の天使」のあの星が役割を変えたものだ)輝き、天空から断固とした筆遣いで1本の棒が突き降ろされる。旅行くものは無言でそれに従い身をかがめる。そこには、何億人もが引き受けてきた死という務めに対するクレーの謙虚さが感じられる。誰の死であれ、此岸のものが人の死を評価する傲慢さとは無縁だ。

 しかし、言葉をどんなに重ねても、この絵の力につりあった解説をすることはできないだろう。簡潔な線描でしか語れないものをこの絵は教えているのである。

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コメント

はじめましてきのこです(o^-^o)
今度、吹奏楽部で
「星の天使~クレーの天使達に寄せて~」
という曲を演奏しますnote
この曲の「星の天使」というのは
この記事の絵のことなのでしょうか?
まだまだ勉強不足なので
いろいろ教えてくださいm(_ _)m

投稿: きのこ | 2010年6月15日 (火) 21時20分

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