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2009/11/07

松井のMVPに言葉が見つからない

 賞賛の言葉が見つからない。

 WSの打率.615、本塁打3本、打点8も十分すごいが、打者の貢献度を最も端的に表す指標として使われるOPS(On-base Plus Slugging)になると、2.143という"incredible"(レッド・ソックス時代のペドロにブラッシュボールを投げられる前までリーグ優勝決定戦で打率5割で打ちまくっていた松井へのアナウンサーの言葉)な数字となる。0.8を超えたら一流という数字だ。いくら短期決戦での計算とはいえ、どれだけ並外れた活躍かが分かる。ちなみに、メジャー移籍以降、松井のOPSが0.8を下回ったシーズンはない。巨人時代の後半は毎年1.1を超えるOPSを記録し、これを上回る打者は王さんだけである。OPSで比較すると、イチローもこの二人には遠く及ばない。しかし、そんな数字に一喜一憂しているのはファンの方で、松井はチームの勝利以外はとんと無頓着である。

 7年間、どんな起用をされても不平を言わず、逆にどんなに活躍しても目標はもっと先だと言い続けてきた松井が、「夢のようだ」と初めて喜びを素直に表した。MVPのトロフィーを頭上にかかげた表情は、憑き物が落ちたようにすっきりしていた。心から良かったと思った。誠実(誠実と真面目は少し違う)に努力し続けてきた人間が報われるのを見るのがこんなに嬉しいことなのか、と思った。

 一時は返上しかけたクラッチの称号、この言葉を日本のファンに定着させたのも松井の貢献のひとつだろう。それは同時に、ひとつひとつのプレーが試合の流れにどう影響したか、という視点で試合を見ていく楽しみを私達に教えてくれた。個人記録を数えていくだけなら試合を見ていなくても構わない。しかし、野球はチームスポーツだ。プレーの繋がりを見ていくことで、スター選手だけでなく、9人全員の役割と個性が見えてくる。NYのファンは、そういう野球の楽しみ方を知っている。

 来年もヤンキースでプレーして欲しいと思うが、そこから先はビジネスの話なのでドライに考えなくてはいけない。デーモンだって宿敵でMVPになった直後に移籍してきて、今はヤンキースの顔のひとりになっている。これからメジャーのどこへ移籍しようと、たとえ年棒が下がろうと、WSでの輝きはファンの心にずっと残っていくに違いない。

 松井の人間性は、かつていじめ撲滅のためのメッセージを依頼され、考え抜いた次の言葉に象徴されていると思う。ファンや同僚はもちろん、報道陣まで気遣い、クラシックや読書など意外に静かな趣味も持つ松井。野球のために生きてきたが、決して野球だけの人ではない。

「僕の夢は野球そのものだった。いじめることが夢なんていう人はいないはずだ。かなう夢、かなわない夢があると思うけど、いじめは夢の遠回りになっている」

 おめでとう。

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