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2009/07/12

色あせない サイモン&ガーファンクル

 サイモン&ガーファンクルが、おそらく最後のワールドツアーの一環で来日するというのは、ポピュラー音楽に関心のある人間にとってはもう事件である。マイケル・ジャクソンの急逝があったとはいえ、メディアの扱いが小さいな、と感じたのは私だけだろうか。 期せずしてナゴヤ・ドームに1番乗りしてしまったが、ドームのコンサートにしては聴衆の年齢層がやはり高い。私はビートルズもS&Gも現在進行形でなく解散後に追体験した世代だが、S&Gは私にとって、青春そのものと言っていい。

 実は、十数年前東京ドームでの彼らのパフォーマンスはには不満が残っていた。南こうせつの前座が長すぎたし、バックも少なく、何よりアーティの声に力がなくて、さすがに年齢には勝てないのかなあ、と寂しい思いをしたものだ。だから、今回も不安がなかったといえば嘘になる。しかし、日本ツアーオープニングの名古屋公演はその不安を吹き飛ばす感動的なものだった。

 アンコール除いて20曲という曲数もそうだが、驚いたのは歌唱力だ。もちろん若い頃の様なハイトーンは出ないし、アップテンポの曲はアレンジでカバーしているところがないではない。それでも、アーティの声は前回の日本公演より間違いなく出ていたし、歌い方が胸に迫るものがあった。

 最初にぐっと来たのは、アーティのソロで歌った「キャシーの歌」。この歌は、デビュー・アルバム「水曜の朝午前3時」の売れ行きが芳しくなく、いったんメジャー活動を断念しかけたポールが一人でイギリスを旅する間歌ったもので、シンプルだがメロディーに温かみと奥行きがあり大好きな作品だ。アーティは、しとしと降る雨に重ねる心情を素晴らしく美しく歌い上げていた。

 それから、いったん2人のソロ作品の披露が合って、再びS&G時代に戻った最初に歌った「ニューヨークの少年」。アルバム「明日に架ける橋」に収められたこの歌が、既に違う道を歩き始めたアーティへのポールの別れのメッセージであることは有名だ。そして、ニューヨークにたった一人残された少年の姿は、911以降傷ついたニューヨークのすべての人の姿に重ねられてきた。ほとんどがポールのパートだが、コーラスに控えめに被せられたアーティの声が胸にしみた。2人は実は仲が悪かったなんて定評などとても信じられない。

 そして、間隔をあけずに「マイ・リトル・タウン」へ続く。これも大好きな曲だ。解散宣言なき解散後、S&Gの唯一のオリジナル曲で、チャート9位にまであがるヒット曲なのに、何故か、それ以降、ベストアルバムにも収められず、コンサートでも取り上げられず(あのセントラル・パークでも歌われていない)封印状態になっていた。しかし、生まれ育ち放課後には一緒にバイクを飛ばした故郷、しかし今は「死人と死にかけた人しかいない」故郷を2人が忘れるはずはなかった。おそらく、この歌を再度取り上げるまでにはポールとアーティの間の葛藤があったに違いない。セントラル・パークでも実現できなかった、S&Gの一体感が、安っぽい郷愁ではない、今も僕達一人ひとりにくすぶっている青春の輝きに火をつけてくれる。

 2人(特にポール)は共に寡作だ。メディアへの露出も上手なほうではない。しかし、40年の軌跡を振り返って、「きらめくナショナルギターのように」輝く作品達はどうだろう。若い頃聞いた音楽と言うのは、懐かしがって今聴くと一気に時代のギャップに気づかされることが普通だが、S&Gにはそれがない。「サウンド・オブ・サイレンス」のメッセージと疾走感は今もなお、と言うより今でこそ新鮮ではないか。ポールはポピュラー音楽に留まらず、20世紀アメリカを代表する音楽家の一人と評価されるようになったが、67歳にしてこのコンサートは今も挑戦的であり、新たな刺激を与え続けてくれる。

 きわめつけは、アンコール前大トリの「明日に架ける橋」だった。この曲を聴いた回数では私は人語に落ちないつもりだが、1番をアーティ、2番をポール、3番を再びアーティという構成は初めてだ。そして、その意味が彼らの歌声でよく納得できた。掛け値なしの友情を歌い上げるこの作品をもっともリアリティを持って演奏するには、この形がいちばん自然なのだ。そして最後の最後アーティは逃げることなく、温かく艶やかなハイトーンで歌いきった。最高だった。

 S&Gという稀有のデュオを彼らならしめているのは、彼らの音楽に対する憧れと敬意の深さだと思う。そして、もうひとつ、特にS&G時代の作品には若者の悩み、悔しさ、絶望が表現されているが、決して突き放したものではなく、どこかで2人の友情が支えてくれていること、それを改めて実感したコンサートだった。

 隣で聞いていた男性は、S&Gをリアルタイムで体験した世代で、前の晩福岡から来たと言っていた。大サービスのアンコール4曲が終わった後、思わず握手をしてしまった。

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